小さな声を大切にするイハラ製作所、行動指針がつくる“明るい職場”のかたち

株式会社イハラ製作所
2025年8月20日 13:50
浜松の地で1961年に創業したイハラ製作所。二輪車や自動車のエンジンに欠かせないオイルポンプやウォーターポンプなどの機能部品をはじめ、部品を作るための工作機械まで自社で設計・製造できる技術力を強みに、60年以上にわたり多くの大手メーカーから信頼を得てきました。
「ないものは自分たちで作る」という創業当時の精神を受け継ぎ、時代の変化に応じて技術を磨き続けています。近年では、自動車部品の開発にとどまらず、大学との共同研究や一般向け製品の開発など、新たな挑戦にも力を注いでいます。
本記事では製造部製造一課の山本課長に、30年以上にわたり現場を支えてきた視点から、ものづくりの面白さと、世代を超えたコミュニケーションについて伺いました。
30年続けてきた、ものづくりとその魅力
ー現在の業務内容とこれまでのキャリアを教えてください。
部品事業部の製造部、製造一課の課長をしています。入社してから、30年が経ちました。担当しているのは二輪車のエンジン部品や車体部分、ハンドル周辺の部品製造です。具体的には、アルミを加工したオイルポンプやウォーターポンプの製造、納品をおこなっています。ここ数年は、四輪車に搭載される衝突防止用カメラの部品の受注も増えてきました。
製造一課は、計50名弱おり、新入社員から定年を超えたベテラン社員まで幅広い年代が一緒に働いていて、毎日班長たちと連携して製造ラインの確認をしています。また、製造は現場だけでは完結しないので、生産管理や技術、品質保証など各部署とも連携をしながら進めています。
ー長年続けてきたからこそ感じる、ものづくりの面白さを教えてください。
「製品になっていく過程」が一番面白いです。最初は図面だけだったものが実際に形となり動いているのを見ると、ものづくりに携わって良かったと心から思えます。これまでに何度か部署異動はありましたが、どの部署にいても感じるのは「ものを作ることの責任感と面白さ」です。私たちが作っているオイルポンプやウォーターポンプは、エンジンの心臓部分とも言える要です。これが止まれば車やバイクが動かなくなるだけでなく、場合によっては大きな事故につながる可能性もあります。ものづくりは人の安全にもつながるので、とても重要な仕事だと感じています。

ーイハラ製作所での30年間に渡るキャリアを振り返ると、いかがですか
入社してまずは、3年間現場で製造をしていました。その後、品質管理や品質保証に異動し、海外赴任も経験しました。インドネシアで現地の人たちと一緒に仕事をした3年間は、自分にとって大きな学びになりました。もちろん言葉の壁はありましたが、丁寧に向き合えば伝わることを知りました。このコミュニケーションを大切に思う気持ちは、今の若手社員との向き合い方にもつながっています。
ものづくりの醍醐味は、ただ作るだけではなく、改善を考え続けられることです。例えば、自分たちが作っている部品がどのように役立っていて、少しでも手を抜くとどうなってしまうのかを知る。それだけで、製造ラインに入る時の心構えは大きく変わりますし、自分の仕事が社会の役に立っていると実感できるはずです。インドネシアで技術を教えていたときも「なぜ必要か」「どうすればより良くなるか」を丁寧に伝えていました。その積み重ねが、仕事の面白さを知るきっかけになるのではないでしょうか。
行動指針がつくる風通しの良さ
ーイハラ製作所の経営理念にある「明るい職場」という言葉を、山本さんはどのように捉えていますか。
当社の経営理念は「創意と強調で、明るい職場、明るい社会を創る」です。私が捉える「明るい職場」は、明るい雰囲気である事はもちろんですが、それぞれが目標を持ち、その目標に向かい行動することにより、社員同士の結びつきが強くなっている職場、そして結果としてより前向きな仕事ができる職場だと思います。その中で心がけていることが、誰もが自然に声をかけ合える場所です。当たり前のことですが、挨拶を毎日欠かさず交わすだけでも、人と人の距離はぐっと近くなります。「おはようございます」や「お疲れさまでした」といった言葉は「あなたの存在を気にかけている」というメッセージだからです。
製造の現場は、作業に集中する時間が長いので、黙々と仕事をしていると、いつの間にか一日が終わっていることもあります。それでは、小さな悩みや疑問を誰にも相談できずに終わってしまいますよね。だからこそ、何気ない気配りが大切です。私自身の経験にも通ずるのですが、20年以上前に先輩から声をかけてもらったことは今でも心に残っているものです。今は私が声をかける立場として、班長や周りの人に積極的に挨拶をしています。特別な仕組みがなくても、挨拶を心掛けることは「明るい職場」につながると思います。
ー行動指針にある「創意工夫」は、現場でどのように進めていますか。
どんなに小さな改善でも一つずつ積み上げていくことを大切にしています。例えば、機械や工具の扱い方を変えるだけで、作業時間が短くなったり、品質が安定したりすることがあります。新しい方法に全て変えるのは難しいですが、現場の声を聞きながら少しずつ改善を重ねています。創意工夫を考えるなかでは、仲間同士意見が合わないこともありますが、立場や経験が違えば、見えるものも違うのは当然のこと。むしろ意見がぶつかるのは非常に良い機会です。
大切なのは「こうした方がいい」と積極的に声を上げてもらうことです。その声をどう実現するかを考えるのが私の役目だと思っています。製造は、一人のひらめきだけでは動きません。みんなの声を一つずつ形にして、全員で共有する。その積み重ねが「創意工夫」だと思います。

ー行動指針の中の「チームワーク」は、どのように現場で根づいていますか。
「チームワーク」と聞くと、大きなプロジェクトや特別な研修を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、私が考える「チームワーク」は、日常の中にあります。現場には、自分から積極的に意見を言う人もいれば、口数は多くないけれどじっくりと考え意見を持っている人もいます。そのため当社では、全員が集まって話す全体ミーティングと、一人ひとりと向き合う時間のどちらも大切にしています。例えば、全体ミーティングで意見を述べられなかった人には、作業の合間に「今、どう?」と声をかけ、意見をもらう。班長とこまめに会話をして「現場で何か変わったことはないか」「困っている人はいないか」を確認する。たとえ声を挙げられない人がいたとしても、私のような立場の社員が声を拾ってつないでいけば、チームとしての一体感はつくれます。
ー経営理念や行動指針を現場に浸透させるために、徹底していることを教えてください。
経営理念や行動指針を「言葉だけ」で終わらせないことです。「明るい職場をつくろう」「報告・連絡・相談を徹底しよう」と言うのは簡単ですが、それを実際の行動として形にするには、日頃のコミュニケーションが欠かせません。当社には、社員らが作った部署ごとのコミュニケーションルールがあります。挨拶をすることやお互いを尊重する姿勢を持つことなど、一見すると当たり前のルールばかりですが、この当たり前こそ大人になると疎かになりがちです。
私は、コミュニケーションルールは交通ルールと同じだと考えています。交通ルールの場合、順守するのは当たり前で、守られなければ事故につながります。同じように、職場での挨拶や報告・連絡・相談といったコミュニケーションも、当たり前のことだからこそ、守れなくなると小さなすれ違いとなり、大きな問題につながります。そのため、私は守れていないことがあれば、その場ですぐに伝えています。特別な仕組みや制度がなくても、当たり前のことを当たり前にやり続ける。その姿勢を私自身が示すことで、周りも同じような行動をとってくれるようになります。小さなルールを守り続けることが、安心して働ける「明るい職場」につながっていくと信じています。
若手社員の声を引き出す空気づくり
ーベテラン社員と若手社員の間に壁を作らないために、どのような工夫をされていますか。
意識しているのは、若手社員が積極的に発言できる空気をつくることです。製造一課の現場はベテラン社員と若手社員の年齢差が大きいです。入社1年目の社員が30年以上の経験を持つ社員に意見を言うのは簡単なことではありません。それでも、意見を遠慮なく伝えてもらえるように、ベテラン社員のほうから積極的に声をかけるようにしています。
声をかけるといっても仕事の話だけではなく、休憩中や昼食の時間に何気なく話すだけでも十分です。「調子はどう?」「最近どこか出かけた?」といった何気ない一言が、話すきっかけになります。
私自身も現場を巡回するときは、積極的に声をかけています。若手社員の中には、自分なりに現場をより良くするためのアイデアを持っていることが多いです。ただ、普段の仕事の中ではその考えを伝える勇気が持てなかったり「こんなことを言っていいのだろうか」と遠慮してしまうこともあります。そのため、こちらから声をかけて、話を引き出すことが大切です。何気ない雑談の中からでも、思わぬ意見や改善のヒントが出てきます。
ー話しを聞く上で大切にしていることはありますか?
相手の話を最後まで聞くことです。一見当たり前のことのように思えますが、実はとても難しいことです。経験豊富な立場になると話の途中でつい「それは違う」「こうしたほうがいい」と口を挟んでしまいます。せっかく若手社員が勇気を出して伝えてくれたのに、途中で意見を被せてしまうと「伝わらない」「遮られる」と思わせてしまいます。一度そう感じさせてしまうと、「遠慮せずに言ってほしい」と幾度と伝えても、声はあげてくれません。そのため、どんな話でも最後まできちんと聞く姿勢を徹底しています。たとえ、自分の考えと違っても、まずは相手の考えを受け止めることが大切です。最後まで話を聞いてもらえたという安心感は「また話してみよう」と思うきっかけになり、それが次の意見や改善につながっていきます。
話を聞くというのは「あなたを大切に思っている」という気持ちの表れです。どんな小さなことでも、伝えてくれた勇気に感謝し相手の声に耳を傾けていきたいです。
ー新入社員が現場に入るとき、山本さんが特に意識していることはどんなことですか。
新入社員にとって一番の壁は、製造現場特有の働き方に慣れることです。立ち仕事が多く、二時間ごとに休憩を挟みながら作業を進めるため、体力面で不安を感じる新人社員も少なくありません。そうした悩みや不安をできるだけ早く解消してもらうために、私は現場に慣れるまではとにかくこまめに声をかけるようにしています。一日のうちに何度も「大丈夫?」「どこかきつくない?」と声をかければ、社員の体調や気持ちの変化に気づくことができます。さらにこちらから気にかけていることが伝われば、新入社員も「困ったときに相談していいんだ」と思えるようになります。
特に入社して最初の一か月はとても大事な期間です。この時期に現場のリズムに慣れて、先輩や周りの人と自然に会話ができるようになれば、長く続けるうえでの支えになります。だからこそ、私は小さな変化に気づくことを大切にしています。

見えない部分にこそ宿る責任感
ーものづくりに対する責任感は、どのように伝えていますか。
ものづくりは、表からは見えない部分こそ大切です。例えば、設計図や資料を一緒に見ながら、実際の車両を分解して部品の位置を説明することもあります。自分が作っている部品が、自動車やオートバイの重要な部分を担っていることを知ると自然と表情や作業に取り組む姿勢も変わってきます。責任感は「これをやれ」と言葉で押し付けても根付きません。社会の中でどう役立っているのかを知り、実感できてこそ生まれるものだと思います。
ー製造において、新しく取り組んでいることはありますか。
自動車や二輪車以外の新しい分野にも挑戦しています。例えばご飯を炊く羽釜「アラヒ」の製造です。最初は「自動車部品の会社が食べ物に関わって大丈夫か」と心配の声もありましたが、実際に取り組んでみると大きな学びとチャンスになりました。
この羽釜の製造は、長年培った金属加工の技術をどう活かすかをベテランが中心になって考え、形にしました。若手社員も一緒に製造に関わり、経験の幅が大きく広がりました。何より、これまでとは異なる分野に挑戦することで、社員の間にも「もっと新しいことに挑んでみよう」という前向きな空気が生まれました。自分たちの技術が思わぬところで役に立つ、その面白さを実感できたのも大きな成果です。こうした取り組みが、これからのものづくりの幅を広げるきっかけになると感じています。
一緒に考えられる人が集まる職場
ーこれからの若い世代に期待していることはありますか。
入社を検討している方々には、決して「こうしなければならない」という固定観念に縛られずにいてほしいです。ベテラン社員が積み重ねてきたやり方を尊重するのは大事ですが、それを守るだけでは現場は変わりません。若手社員だからこそ見えることや気付くことは必ずあります。最初からすべてがうまくいく必要はありません。失敗を恐れずに、自分の考えを伝えることを、大切にしてほしいです。
ーイハラ製作所は、どんな方にフィットすると思いますか。
当社の一番の良さは「声が届く場所」です。何かを変えたいと思ったときに、その声を拾ってくれる人が必ずいます。耳を傾け、話し合える空気もあります。たとえ黙っていても、「どうした?」と声をかけてくれるベテラン社員もいます。現場を「もっと良くしたい」と思ったときに、一人ではなく仲間と一緒に考えて、行動できる。声を拾ってくれる環境だからこそ「一緒に考えて、意見してくれる人」がフィットすると思います。今のイハラ製作所も、そういう仲間が集まっているのですぐに打ち解けられるはずです。
