1823年の創業以来、200年以上にわたり酒造りを続けてきた株式会社木内酒造1823。日本酒「菊盛」や、世界40カ国以上へ輸出される「常陸野ネストビール」などを手がけ、伝統を大切にしながら新たな挑戦を続けています。
今回は、そんな株式会社木内酒造1823で常陸野ネストビールの製造に携わる長塚さんに、未経験から飛び込んだ醸造の仕事のやりがいや、実現できるものづくりの魅力について語っていただきました。
前職は、実業団でプロの選手だったという長塚さん。ロードレースとの出会いを教えてください
私が自転車競技を始めたのは中学生の頃です。父がアマチュアでロードレースをしていたことがきっかけで、一緒にサイクリングへ行くようになり、少しずつ競技として自転車に取り組むようになりました。高校へ進学する頃には本格的に競技へ打ち込みたいという気持ちが強くなっていましたが、進学した高校には自転車部が無く、自転車部を立ち上げようと考えたこともありましたが、最終的には社会人チームへ加入し、並行して自転車部のある近隣の高校にも通いながら競技を続けていました。高校時代は茨城県代表として国民スポーツ大会へ3〜4回、大学時代も毎年インカレへ出場しました。
一度は競技から離れようと思った時期もありましたが、「もう一度本気で走りたい」という思いが強くなり、大学卒業後に中学時代からお世話になっていたクラブチームの紹介で実業団チームへ所属し、それから約6年間、ロードレース選手として活動しました。
「せっかく飲むなら、本当においしいものを」お酒への興味がこだわりへと深化
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競技人生を経て、なぜ木内酒造1823へ転職されたのでしょうか
現役時代は、パフォーマンスへの影響を重視し、ほとんどお酒を飲みませんでした。しかし、競技生活の終盤に体調を崩し、選手として走る機会が減ったことをきっかけにチームのサポート役を務めるようになり、その頃からお酒を嗜むようになりました。
自転車競技は、パーツ一つの違いが走りに大きく影響する繊細な競技です。そのため、機材やセッティングへのこだわりを強く持っていました。お酒を嗜むようになってから、この「こだわり抜く感覚」はお酒にも通じるものがあると気づいたのです。だからこそ「せっかく飲むなら、本当においしいものを飲みたい」そんな思いからさまざまなお酒を飲むようになり、自然と酒造りそのものにも興味を持ちました。木内酒造のビールに出会ってからは、一般的なビールとは違い、柚子やみかん、お米など、他ではあまり見ない素材を使ったビールを造っていることに驚いたことを覚えています。香りが豊かで、ビールが苦手な方でも楽しめる味わいで、「こんなビールがあるんだ」と感動すると同時に、ものづくりへのこだわりを強く感じました。それをきっかけに、競技を終え、就職先を探す中で「伝統があり、これから先も長く続いていくものづくりに携わりたい」という思いが強くなり、木内酒造に興味を持つようになりました。
木内酒造への入社を決めた理由を教えてください
転職活動において面接を受けた会社は木内酒造だけでした。未経験で酒造業界へ挑戦する場合、多くの会社では店舗勤務や営業を経験してから製造へ配属されるケースが多い一方で、木内酒造は未経験からでも製造現場に挑戦できる環境がありました。自転車も機械も「ここを変えたらどうなるんだろう」と試すことが好きな性格もあり、のめり込んでいました。その点ビールづくりも似たような感覚があり、「もっと美味しいビールを追求するにはどうすればいいか」と考えることに興味を持ったことが、入社を決める最後の後押しになりました。
未経験からの挑戦がほとんど。幅広い世代が活躍する環境
入社前と入社後で、木内酒造の印象は変わりましたか
入社前は、約200年続く酒蔵なので、年齢層は高く職人気質の方が多い環境だと思っていました。面接の際に工場を見学させてもらったときも、皆さんが一つひとつの工程に丁寧に向き合う姿が印象的で、「やはりものづくりの現場なんだな」と感じていました。でも、実際に入社してみると、そのイメージは良い意味で変わりました。
想像していた以上に年齢層は幅広く、その経歴も実に多様でした。醸造を専門的に学んできた人だけでなく、異なる業界から転職してきた方も数多く活躍しています。未経験からでも挑戦できるとは聞いていましたが、入社して改めて実感しました。年齢や前職を問わず、より美味しいビールを共につくろうとする空気がそこにはあり、入社前に想像していたよりも風通しがよく、挑戦しやすい職場だと感じています。
未経験で入社することに不安はありましたか
正直なところ、不安よりも「これからどんなことを学べるのだろう」という楽しみが強かったです。
実際に入社すると、ビールづくりには想像以上に機械を扱う工程がありました。木内酒造は大手メーカーのような完全オートメーションではなく、人が機械を操作しながら造り上げていく場面が多いので、私にとっては、この点がむしろ馴染みやすい部分でした。ロードレース時代は、自転車のメンテナンスや機材の調整を自分で行っていたため、工具の扱いや機械の構造にはある程度慣れていました。電気系統の考え方なども、競技で培った経験が思いのほか役立っていると感じています。
「外作業」で得た土台が、今の仕込みに活きている
入社後はどのような仕事から担当されましたか
現在は仕込みを中心に、製造工程全体の管理やレシピの検討にも携わっていますが、はじめからこれらを任されていたわけではありません。製造の現場は、ビールを造るBrewing(醸造)チーム、瓶や缶に詰めるボトリングチーム、品質を分析するチーム、そして事務の4つに大きく分かれています。私は人員の都合もあり、比較的珍しく、最初からBrewingチームに配属されました。とはいえ、はじめに任されたのは仕込みではなく、「外作業」と呼ばれる工程でした。ビールを造ると、ろ過した後に大量の麦かすが出ます。これを回収して袋に詰めたり、ホップを片づけたりするのが最初の仕事です。麦かすは農家の方へお渡しし、肥料や飼料として再利用していただいています。
冬場は冷え込み、体力も求められる仕事です。しかし今振り返ると、この経験こそが大きな土台になったと感じています。どのビールにどの麦芽を、どれだけの量使うのか。仕込むビールによって麦かすの量がどう変わるのか。実際に自分の手で扱ったからこそ、後に仕込みを任されたとき、一つひとつの工程を深く理解できたのだと思います。
その後、担当業務はどのように変わりましたか
外作業を半年ほど経験した後、ボトリング工程へ異動しました。瓶詰めや缶詰めの工程を、先輩にマンツーマンで指導を受けながら習得していきました。2カ月ほど共に作業した後は自分が主担当となり、1年ほどボトリングに携わりました。
その後、再び醸造チームへ戻り、タンク洗浄やビールの移送や遠心分離といった、より専門的な工程を任されるようになりました。発酵タンクの洗浄は品質を大きく左右する重要な工程であり、ラガービールのように透明感のあるビールを造るには、酵母やホップを遠心分離機で取り除く工程も欠かせません。こうした工程を一つずつ経験し、ようやく仕込みを任されるようになりました。
今では仕込みだけにとどまらず、工程全体を見ながら必要な場面でサポートに入り、レシピの考案や原料の発注にも携わっています。醸造に関する仕事は、ほぼ一通り任せていただけるようになりました。
「自分が造ったビール」が誰かの一杯になる。その瞬間が何よりもうれしい
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ビール醸造ならではの面白さや、自分が携わったビールがお客さまに届いていると実感した瞬間を教えてください
ビールづくりそのものの楽しさは、入社した頃からずっと感じていました。加えて、実際に仕込みを担当するようになってからは、「自分が造ったビールが世の中に出ていく」という手応えを持てるようになりました。店頭で自社のビールを見かけたり、家族が飲んで「おいしいね」と言ってくれたりすると、やはりうれしいものです。
特に印象に残っているのは、全国各地で開かれるクラフトビールイベントに出店したときのことです。会場に足を運ばれるのは、本当にビールが好きな方ばかり。「このビール、飲みましたよ」「次はどんなビールを造るのですか」と、直接お声をかけていただけます。
普段は工場での仕事が中心で、飲んでくださる方の表情を目にする機会はほとんどありません。料理人のように、その場で「おいしい」と言っていただける仕事ではないからこそ、お客さまの生の声をうかがえる時間は何より貴重です。そうした言葉をいただくたびに、またビール造りを頑張ろう、と自然に思えます。
同じ目標に向かう仲間と働く、一体感がある職場
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職場の雰囲気や働きやすさを教えてください
Brewingチームは20〜30代が中心で、比較的若いメンバーの多い職場です。年配の方もいますが、年齢に関係なく話しやすい雰囲気があります。私の感覚では、会社というより部活動に近いかもしれません。全員が同じ目標に向かって働き、誰かが困っていれば自然と手が差し伸べられる。気になることもすぐに相談でき、改善したい点も声に出しやすい、風通しのよい職場です。
この雰囲気は入社した頃から変わりません。仕事でありながら、好きなものを仲間とともに追求する時間でもある。そうした環境だからこそ、毎日を楽しみながら働けています。
醸造の工程を積み重ねた先に、「ゼロから生み出す」仕事へ
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今後身につけたい技術や、挑戦したい事・目標を教えてください
現在は仕込みをはじめ、醸造に関わる工程を一つずつ任せていただけるようになりました。そのなかで、これから挑戦したいと考えていることは、新商品のレシピづくりです。今もレシピの発案には携わっていますが、自分だけで完成まで導くことは難しく、まずは6割ほどの形にし、上司と相談を重ねながら仕上げています。今後はさらに専門的な知識を深め、構想から仕上げまで、自分自身の手で一貫してレシピを組み立てられるようになりたいと考えています。
木内酒造1823で「一緒に働きたい」と感じるのはどのような人ですか?また、異業種・未経験から転職を考えている方へメッセージをお願いします
ビールだけではなく、日本酒やウイスキーなどさまざまなお酒を造っています。お酒が好きな方なら、きっと楽しく働ける環境だと思います。 自分より長く醸造に携わってきたベテランの方もたくさんいます。 知識がなくても、丁寧に教えてくれる人がそばにいるので心配はいりません。
そしてこの仕事は、決して華々しく日の目を浴びるものではないかもしれません。過去には私もタンクの並ぶ醸造設備を併設したビアレストラン(ブルーパブ)のような店で、お客さまと話しながらビールを提供する姿に憧れたこともあります。ただ、木内酒造の仕事は、それとは少し異なります。ビールは仕込みから完成まで3週間ほどを要し、一日ごとに大きく動くわけでもなく、造ったその場で「おいしい」と言っていただける仕事でもありませんが、一つひとつの工程はどれも欠かせないとても大切な仕事です。表舞台に立つ華やかさはなくとも、入社してすぐに製造の現場へ入り、ビールづくりに携われる環境があります。
だからこそ、お酒とものづくりが好きな気持ちさえあれば経験は問いません。あなたが手がけた一杯が誰かの特別な時間になる。そんなやりがいを一緒に味わえる仲間が増えると嬉しいです。
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