「支える」から「共に創る」へ ー元フジテレビアナウンサー田中大貴が切り拓くスポーツビジネスの新境地ー

株式会社Inflight
2025年6月17日 13:30
株式会社Inflight(以下「Inflight」)は元フジテレビアナウンサー田中大貴が2018年に設立したスポーツビジネス領域に特化したコンサルティング会社です。アスリートやチーム、企業の未来を創造し、独立リーグのチーム支援から大手企業との協業、さらには介護事業との連携など多岐にわたるプロジェクトを手がけ、スポーツが生み出す価値を社会に伝え続けています。
代表取締役の田中はアナウンサーという華やかなメディアの世界からスポーツビジネスの世界へと転身。一見すると異業種への転身に見えるこの挑戦は、彼の中でいかにして芽生え、どのようなビジョンを持って実現されたのでしょうか。
歩んできた挑戦や軌跡とともに半生を振り返りながら、スポーツビジネスの可能性に迫ります。
エンターテイメントを超えた大きな可能性ースポーツの感動を『ビジネス』という視点で社会に届けるー
ーー15年間、アナウンサーとして活躍されて、様々な現場で経験を積まれたと思いますが、人気スポーツキャスターという地位を築きながらも、なぜスポーツビジネスという異なる世界へ飛び込もうと思われたのですか?
スポーツビジネスの可能性に強い確信を持ったからです。アナウンサー時代はスポーツキャスターとしてプロ野球をはじめMLB大谷翔平選手やJリーグ、Bリーグなど、様々な選手やリーグに関わってきました。その中で「スポーツには単なるエンターテイメントを超えた、大きな可能性が秘められている」と実感したのです。
スポーツには「継続性」と「社会的インパクト」が必要だと考えています。感動を与えるだけでは、一過性のブームで終わってしまう。継続的に社会に貢献していくには、経済的かつ社会的なインパクトも創出しなければならないのです。このことに気づいた時、メディア側の視点を武器にしながら、スポーツの感動を「ビジネス」という視点を通して社会に届けられると確信しました。
ーーこれまでのどのような体験がビジネスの可能性の発見につながったのでしょうか?
メディア側の視点を持っていたからこそ、ビジネスの可能性に気づけたと思います。どうすればメディアが注目し、ニュースになり、社会現象になっていくのか、15年間キャスターとしてその過程を目の当たりにしてきました。「こう伝えれば、メディアや世の中は目を向けてくれる」「こういうプロジェクトを組めば、社会に浸透していく」といった、メディア側の視点が私の中に蓄積されていったんです。そしてその知見こそが、スポーツビジネスで成功するためのカギになると感じていました。だからこそ今度はメディアを巻き込みながら、スポーツの価値を最大化し、選手やチーム、そして社会全体に貢献していきたい。そのように考えてInflightを立ち上げました。

アスリートと社会がタッグを組む新常識ー社会的インパクトを与えるInflightの挑戦ー
ーーInflightは「スポーツ×ビジネス」がキーワードとなりますが、どのような事業を展開していますか?
スポーツビジネスにまつわるコンサルティング事業です。具体的には、スポーツチームやアスリートのマネジメント、スポンサー獲得支援、マーケティング支援です。目指すのはスポーツの力で社会を豊かにすること。アスリートやチーム、企業、そして社会全体にとってメリットのあるビジネスモデルを構築し、スポーツの価値を最大化することが使命です。現在は約70社の企業のコンサルティングを行っており、中には私がアドバイザーや取締役として経営に参画し、上場を目指している企業もあります。
ーースポーツ×ビジネスという領域で手がけたプロジェクトの中で、印象に残っている事例はありますか?
社会的インパクトを生み出せた事例の一つとして、介護事業社(株式会社SOYOKAZE)との連携プロジェクトがあります。高齢者の社会参加を促進するために、デイサービスにプロスポーツ選手や元力士を招き、交流の場を設けるという取り組みです。
介護業界の課題として、多くの高齢者の方々(特に男性)はデイサービスに来ることにあまり乗り気ではなかったのです。理由を尋ねると「デイサービスに行く楽しみが分からない」「他の人と話すのが苦手」といった声が聞かれました。そこで私たちは「スポーツ」を切り口に、高齢者の社会参加を促進できるのではないかと考えました。具体的には、スポーツ選手や元力士をデイサービスに招き、高齢者の方々と交流してもらうプロジェクトを企画したのです。一緒に軽い運動をしたり、昔のスポーツの話をしたりと、共通の話題を通して心を通わせる場となったことで、それまでデイサービスに通うことを渋っていた高齢者の方々が、「デイサービスへ通う意味」を見出すことができました。
ーースポーツが、高齢者の社会参加を促す力になったのですね。社会的インパクトとなると、アスリート側にも影響があったのでしょうか?
このプロジェクトはスポーツ選手側にもメリットがあります。実は下部リーグの選手や引退後のアスリートは、経済的に厳しい状況です。しかし、訪れた介護事業所に併設されているリハビリ施設や栄養士による食事指導などを無償で提供することで、彼らの競技生活やセカンドキャリアをサポートできたのです。さらにこの取り組みは介護業界の人材不足解消にも貢献しています。スポーツ選手が介護の現場で活躍する姿を見ることで、若い世代が介護業界に興味を持ち、新たな人材の流入につながる可能性があるからです。実際に女子サッカーチームの選手の中には、この経験を通して介護の仕事に就きたいと考えるようになったメンバーもいます。
ーー企業、スポーツ選手、高齢者、そして社会全体にインパクトを与えた素晴らしい事例ですね。Inflightが手がける新しいビジネスモデルの構築について教えてください。
私たちはスポーツと掛け合わせた新しいビジネスモデルを構築することにこだわっています。パソナ様と協業した「アスリート社員制度」もまさにその一例です。
この制度設立の背景には、パソナ様が東京五輪をきっかけに興味を持った「スポーツ分野への進出」という新たな挑戦がありました。しかし、スポーツというイメージが希薄だったパソナ様にとって、アスリートやスポーツに関心のある層への認知度向上、ひいては人材獲得は大きな課題だったのです。そこで私たちは競技と仕事の両立を希望するアスリートをパソナグループの各企業で雇用することで、アスリートの経済的支援を行うとともに、パソナ様はスポーツ分野での認知を広げ、新たな人材獲得の機会を創出できると考えたのです。
制度を導入した結果、アスリートやスポーツが好きな人が人材登録をしてくれるようになり、パソナ様の人材獲得にも貢献することができました。単にスポンサーとして資金を提供するだけでなく、ビジネスパートナーとして共に事業を創造していく。これが私たちのビジネススタイルです。
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障壁は常に立ちはだかっているー野球が教えてくれた経営の本質と田中流 経営哲学ー
ーーアナウンサーという華やかな世界から、経営者という全く異なるフィールドへと飛び込んだ中で、意思決定の際における判断基準の変化などはありましたか?
大きな変化は「自分軸」から「他人軸」への転換です。アナウンサー時代は、自分自身のキャリアやポジションを優先してしまいがちでした。スターティングメンバーに選ばれるか、メインキャスターの座を守れるか、どうしても「自分」を中心に物事を考えていたのです。
しかし、経営者になると立場は一変します。自分自身でビジネスを創造し、社員やクライアント、関わる全ての人たちの未来を背負う立場になるのです。だからこそ「自分軸」を捨て「他人軸」で考えるようになりました。
ーー「他人軸」という言葉が印象的です。具体的にどのような考え方なのでしょうか?
目の前の人が何を望んでいるのか、何に困っているのか、どうすれば幸せになるのか。これを最優先に考えて行動することです。クライアント企業であれば、その企業が抱える課題はなにか、どのような成果を期待しているのか。アスリートであれば、どのような目標を掲げ、どのような壁にぶつかっているのか。常に相手の立場になって考え、行動する。これが「他人軸」です。
自分軸で考えていると、どうしても不安や恐怖、迷い、葛藤といったネガティブな感情に囚われてしまいがちです。しかし他人軸に立つと、目の前の人を幸せにするために何ができるかをクリエイティブに考えられるようになり、インスピレーションが湧き出てくるのです。自然と前向きな気持ちで仕事に取り組めるようになります。
ーー田中さん独自の経営スタイルは、慶應大学時代に選手兼トレーニングコーチを務めていた経験が生かされているようにも感じます。自身の経営スタイルについて改めて振り返るといかがですか?
大学時代の経験は、今の経営スタイルに大いに生かされていると思います。慶應大学の野球部は150人〜200人規模の大きな組織でした。三浪の学生もいれば、野球未経験者もいる。上を見上げればプロを目指すトップアスリートもいて、純粋に野球を楽しみたい学生もいる。私自身は、選手として試合に出ながらトレーニングコーチを兼任し、チーム全体のトレーニングメニューを考えていました。目標も、能力も、バックグラウンドも全く異なる多様なメンバーをまとめ、チームとして同じ方向を向かせるためにはどうすればいいのか。選手でありながらもトレーニングコーチとして、常にそのことを考えていました。
中でも全員が納得するメニューを作るのは至難の業です。プロを目指す選手には高レベルのトレーニングが必要ですし、未経験者には基礎練習から丁寧に指導する必要があります。それぞれの目標や能力に合わせた個別指導はもちろん、チーム全体の士気を高めるための工夫も必要でした。
この経験は、経営者として社員やクライアントなど、様々な立場の人々と関わりながら組織をまとめていく上で非常に役立っています。多様な人材、それぞれ異なった目標を持つ人らをまとめチームとして同じ方向を目指す。この時に培われた経験が、今の私の経営哲学の根幹となっています。

ーースポーツビジネスの世界で、これまでに直面した障壁や、それを乗り越える際に意識していることについて教えてください。
前提から覆してしまうと、障壁やハードルがあるのは当たり前です。目の前で困っている人や課題を解決したいクライアントは、その障壁を超えられないから私たちを頼ってくれています。その課題を超えるのは当然の作業だと考えていて、障壁を常に超えているからこそ会社の価値、自分の存在価値があると思います。
壁に直面した時、意識するのはやはり「他人軸」で考えることです。クライアントが本当に求めているものは何か、どうすれば彼らの期待を超えることができるのか。常に相手の立場に立って考えることで、最適な解決策が見えてきます。
ーー「常に障壁はある」という考えは、自身のプレッシャーにもつながると思いますが、経営者としてどのような心持ちで臨んでいるのでしょうか?
経営においては「精神的には憂鬱であれ」と。「憂鬱な状態が続くのが経営なんだ」と考えています。経営者とは人の人生を預かる仕事です。だからこそ楽観的な思考に陥ることなく、常に緊張感を持ってプロジェクトやマネジメントに取り組む必要があるのです。ただ喜びがないわけではありません。大きな喜びを日々感じています。例えばメンバーが結果を残してくれたり、プロジェクトを成功に導き、目の前にいる方を豊かにできた時に、初めて喜びを感じるのです。つまりは「自分ごとに関しては憂鬱であれ、 他人ごとに関しては喜べ」といった考えです。自分の会社や自分自身の成功に対しては、一定の距離を保ち、常に冷静な目で見るよう心がけています。
ーー今のご自身を作り上げる根源となった、人生において大きなインスピレーションを与えてくださった人物や経験はありますか?
とくダネ時代にお世話になった小倉智昭さんの存在は非常に大きかったです。アナウンサーという世界に飛び込んだものの野球しかやってこなかった私は、喋ることや伝えることについて全くの素人でした。そんな私に小倉さんはこんな言葉をかけてくださいました。
”君がやってきた野球という組織と、番組という組織は同じだ。ADは補欠、レギュラはキャスター、監督、そしてファンの皆さんは視聴者だ。よーいどんでオンエアが始まり、プレーボールになる。視聴率という試合結果が出る。今まで君が歩んできた野球人生と、これから始まる番組作りは同じなんだ。送りバントができなかった君が送りバントができるようになったように、ホームランを打てなかった君がホームランを打てるようになったように、今は何もないアナウンサーかもしれないが、野球で培ってきた経験を活かせば、番組作りも同じ考え方でいける。だから一緒に勝負しよう”と。
この言葉は当時の私にとって大きな支えとなり、小倉さんとの出会いは私の人生における大きなターニングポイントでした。野球に例える考え方は今の経営にも生かされています。
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スポーツビジネスの未来:スポーツビジネスの枠を越えるーInflightが描く進化論ー
ーー今特に注力されている取り組みを教えてください。それによって社会はどのように変化していくと考えていますか?
私たちの事業領域はスポーツビジネスの枠を超えつつあります。スポーツ好きの方々はビジネスマンが多く、腕時計、車、旅行、グルメ、一点物、ゴルフ、不動産といったものにも関心が高い傾向があるからです。つまりスポーツというキーワードでつながるターゲット層は、他の様々な分野にも共通しているのです。そこで私たちは、同じターゲット層を持つ企業との協業プロジェクトに力を入れています。例えば資産運用会社からの依頼で、アスリートが少額からでも資産運用を始められるサービスを開発したり、不動産会社と提携して現役中や引退後のアスリートの住居探しや不動産投資をサポートするシステムを構築するといった取り組みです。これらのプロジェクトを通して、アスリートの経済的な基盤を強化するだけでなく、スポーツファンのライフスタイルを豊かにする様々なサービスを提供していきたいと考えています。
ーー スポーツの枠を超えた新たな事業領域ですね。Inflightの今後の展望についてもお聞かせください。
地方の中小企業との連携強化に力を入れていきたいです。これまでは東京や大手企業との取引が中心です。しかしスポーツの力を必要としている企業は地方にこそ多く存在すると考えています。地方の中小企業は、スポーツを起用することで社員のモチベーション向上や人材獲得、新規プロジェクトの創出に繋げられる可能性を秘めているのです。現在は関西や神戸の企業とは連携を進めていますが、このムーブメントを全国に広げることが目標です。地方創生の一環として、スポーツビジネスの力で地方経済を活性化させたいと考えています。
ーー 田中さんが掲げる「スポーツビジネスのカタチ」とはどのようなものでしょうか?
双方にとってスポーツの価値を生み出せるようなビジネスを構築してこそ「スポーツビジネス」といえるのではないでしょうか。
具体的にいうと資金難を抱えるチームを“支える”のではなく、共に“創る”関係性を築くことです。チームを支えるサポーターではなくビジネスパートナーとして並走するご提案をし、収益を分かち合うレベニューシェアを目指しています。上下関係や指示命令ではなく、同じ目線に立ち、同じ方向を向いて共に歩む。チームを経済的に支援するだけでなく、チームと共にビジネスを創造し、新たな収益を生み出す仕組みを作ることです。この事例をもとにスポーツビジネスの新たな可能性を示し、より多くのチームを支援していきたいです。
ーー スポーツビジネスに携わる上で重要なことは何でしょうか?
スポーツビジネスに携わりたいと考える人は、スポーツへの愛情と情熱にあふれています。しかし、時にその“情”がビジネスを成功に導く妨げになることがあるのです。愛情や情熱はもちろん大切ですが、冷静な判断力も必要です。“情”だけに流されず、客観的な視点を持つことで、より良い結果に繋がると考えています。時には冷酷な判断をしなければならない場面もあるでしょう。だからこそ愛と熱を持ちつつも、冷静さを保ち、スポーツとの適切な距離感を維持することが重要だと考えています。
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昨日の自分よりも成長できているかー迷わない自分になるための歩み方ー
ーー スポーツビジネスに興味を持つ若者に向けて、まず取り組むべきことを教えてください。
何事に対しても一歩踏み出す勇気を持つことです。人はどうしても「失敗したらどうしよう」「周りの人にどう思われるだろう」といったネガティブな思考に陥りがちです。もちろん、リスクや不安があるのは当然のことですが、それ以上に「挑戦することでどんな未来が待っているか」「どんな自分に出会えるか」「どんな結果を生み出せるか」といったポジティブな可能性に目を向けてほしいです。そうすると恐怖心は薄れ、一歩踏み出す勇気が湧いてきます。
ーー今の若者たちは多くの情報に囲まれて生きていますよね。だからこそ、なかなか一歩を踏み出せない方も多いように感じます。田中さんは、この社会的課題をどのように見ていますか?
情情報過多の時代の中で生きているが故に情報収集能力や分析能力が高い一方で、周りの人と比べてしまったり、情報に振り回されて自分を見失ってしまうこともあるのではないでしょうか。SNSの普及により、生まれたときから「いいね」の数やフォロワー数といった数字に囲まれて生きている世代だからこそ、「人と比べない」ということが重要になります。人と比べるのではなく、自分自身と向き合い、昨日の自分よりも成長できているか、自分に打ち勝てているかを意識してほしいですね。具体的には集めた情報と自分自身を照らし合わせ、何が足りないのか、自分の方向性は正しいのかを考える。自分と向き合うための情報収集を心がけてみてください。
